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「二男坊」~第五話~ [小説]


 甥っ子ちゃん

 最初の一年間は、通院以外はただ寝てた。酒も煙草もやめ、完全療養である。ただ、あまりに忙がしかった反動からか、この余裕つーのが幸せだった。やったことのなかったゲームをやったし、テレビを思う存分観た。本をたくさん読んで、ジャズをたくさん聴いた。ギターもまた弾き始めた。

 そして。なんといっても甥っ子である。

 そう、妹の洋子に子供が生まれたのである。旦那は普通のサラリーマンじゃなかったので、自宅で仕事をしている。よって甥っ子はウチいわゆる実家に昼間は遊びに来る。
 
 甥っ子、紀一くん。略してノリは俺の残りわずかのだらしない人生をすごい幸せな時間に変えてくれた。父親母親は、もちろん歓喜である。それまでよく喋らなかった父親が孫相手に幼児語で喋りかけている。玩具を購入する。それまで掃除も料理も適当だった母親が妙にキレイ好きになり野菜野菜野菜とうるさくなった。

 俺は二年目以降、自宅でライターの仕事をぼちぼちと始めていた。と、同時に煙草を吸い酒も飲み始めた。なにせ難病だから原因はわからない。煙草と酒が悪いとは限らないのだ。

 で、ノリと猛烈に遊んだ。はいはいの頃から一緒にお店ごっこや字のお勉強、さらにはバトルもやった。なんせこっちは暇なおじちゃん。本気で遊んでいるからノリも嬉しいのだろう。

 ウチに来るとまず「竜じぃーっ!」と大声で叫んで来る。はぁ、俺の人生でそんな女いたか?来るだけで自然と顔が緩んじまう女いたか?NO!マジ、俺はノリといて人生で初めて思い切り笑ったような気がするのだ。

 「竜じぃ、お仕事もうすぐ終わるかなぁ。そしたらノリと遊んでくれるかなぁ…」
 だから、たまに仕事中にノリが来ると、じれったくなっちまう。妹の洋子に「竜じぃが仕事中はダメよ!」といわれているノリは、まだよちよち歩きなのに階段の半分まできて、独りごちるのだ。

 「…でもノリは我慢しないとな。もうすぐだよ、きっとな!」
 ガオーッ!限界である。かわいすぎるぜ。俺は仕事をほおリ投げると階段に座っているノリを抱き上げ、即、バトル突入へ。バトルといってもノリはまだまだよちよち歩きなので、倒れないように、頭をぶつけないように、怪我しないように、と遊ばないといけない。キャッキャ喜ぶノリとそんな風に二時間以上も遊ぶ訳だが、そのお陰で腕には筋肉がつき、足腰も鍛えられ、体力がついてきた。自分の子供でもないのに一緒に旅行や海、お散歩とどこへいくにも俺はついていった。とにかく楽しいのだ。人生、初めて、といっていいくらい。

 「いやぁ、しかし竜ちゃんすごいね。そこまで遊ぶ人もめずらしいよ」と妹にいわれるくらいだが、そう、俺はノリに夢中だからいいのだ。
 そして、三年目。奇跡は起こった。

 「あれぇ、片桐くん、心臓がなんか小さくなっているよ。動きもいいし。これは奇跡だよ!もはや拡張型心筋症とは言えないよ!」

 須田医師にそういわれても俺はピンとは来なかった。なんせ、この病気も初期段階はなんか息苦しいだけだから、よくなっている状態が把握できないのだ。

 「えっ!じゃ治ったんですか!」

 「うーん、残念ながらそうは言えないんだよなぁ、難病だから。ただ左心室の動きは悪いから無理はしないでよ」

 心臓病で辛いのはこの「無理はしない」という言葉だ。そう、すべて自己責任なのである。でもさ。ノリと遊ぶ時はそんなこと関係ねぇ!ひたすらノリの思いのまま、オモチャになりきって遊ぶのだ。

 「竜二さん、なんか最近、顔色よくないすかぁ?なんか美那子の方が病人ぽくね?」

 「そらぁ、しょうがないよ、美那子っち!ライターなんか顔色悪くなきゃ、いんちき臭いよ」

 「だいたいね。あれから仕事が目減りしてるし、ギャラがなーんか安くなってんのよね。カメラマンも雇えなくて、美那子が撮るってなによ!」

 「がははぁ、それでMacで編集できれば、ひとりで全部できちゃうなぁ」

 「もうっ!パソコンのせいで、みんなギャラが安くなっていくわ。美那子も結婚しようかなぁ?」
 久しぶりの新橋。サラリーマンが夕方あたりからなんとなく嬉しそうに浮遊する飲み屋街だ。

 「おっ!結婚したいのできたか?」

 「えーっ、美那子これでもカメラマンから編集部、お客さんと迫って来る人、多いんだからぁ。でもさ。須田医師…」

 「そら無理」

 「うるさいなりぃ、おらおら竜二さんも飲んで!朝までいくわよ、今日は!」

 「…あっ、そうだ。俺のアニキの奥さんがさ、岬さんていうんだけど。今度、湘南の方で情報誌みたいのつくる会社作ったんだぁ。で、クライアントはすべて地元の成金らしくて、月一で結構いい儲けになりそうなんだって。たださぁ、富裕層を狙うならそれなりのもんつくらないとダメじゃん?で、カメラマンとMacデザイナーは押さえたんだけど、助手のライター欲しがってんだよ。美那子、どう?」

 「美那子って、呼びつけ?恋人かいっ?で、その話、悪いけど乗るわ。湘南でしょ。ふふふ。当然、サーファーがたくさんいて…」

 「よだれ」

 「うるさい。で、岬さんてどういう人なのよっちゃん」

 「おまえみたいの」

 「ふっ、美那子に逆らおうなんて、岬、いくつよ?ほほほほほ」

 「四十路超え」

 「ほほほほほ。顔、洗ってらっしゃいよねぇ。竜二さんもそう思うでしょ、でしょ?」

 「…お、俺はノリがいればさぁ(照)」

 「ノリ?魂こめてモーホーかいっ?」

 「ってか、美那子、岬さんか?」
 
 てな訳で、不況にあえぐ日本にいて俺はノリのお陰で心臓も安定し、楽しくやっていた。しかし、サッカーゲームにはまりきっている俺がいうのもなんだが、そんな俺とノリの蜜月状態をゲームが破壊しやがった。

 ノリも幼稚園ともなると、園児との付き合いつーのがある。それでもゲーム脳とかを考え、妹の洋子はノリにゲームは与えなかった。お陰で遊びのすべてが、オリジナル。これは本当にすごいことだし、数字、ひらがな、カタカナ、漢字、英語に夢中なノリは、外で喋らないように注意するくらい言葉の世界にはまっていた(他のお母さんが僻むから)。

 でも、ゲーム一発でパー。ノリも実はみんなとゲームしたかったけど我慢してたみたい(いじらしい奴)。しかも字が読めるから攻略本読んで、もういきなりボッケモン博士となってしまったのだ。でも、英語も何もかもパー。すごいよなぁ、ゲームって。

 で、ノリもお忙しい身となってしまい、俺は中途半端に暇になってしまった。世の中、失われた十年とやらから不況だし。ライターの仕事もそうは来なかった。アベノミクスはどこにやら。気まぐれに就活するも、履歴書が律儀に舞い戻るばかり。ギターを弾けば、四十肩だし。

 暇。俺は実家の子供時代から使っている子供二段ベッドで、鬱々としていた。もはや見た目は病人らしくないので、近所の人も噂しているみたいだ。「片桐さんのとこの息子さんて…」はいはい。ひきこもりですよ(実際は金がなく動けないのだが)。ウェブのセクシーもツッタカターも飽きたしなぁ。しょうがない…と右手をごそごそと…。

 「竜二さんてばっ!」

 あぁ、漏れみーよ!美那子はライターらしく図太い神経を持ったと同時に、初々しさなんか削除しちまったようだ。

 「なんだよ!ここ片桐家の二階子供部屋だぞ。よく、勝手に上がりこんできたな?」

 「へへぇ。右手、クリくさっ!違いますよ、竜二さん、ほら!」
 ゲッ!驚いた!ズラッと並ぶは、兄健一のお嫁さん&元上司の岬さん、デザイナー径由ITな徹くん、NPO代表元カノりえちゃん、カメラマンモーホー志田さんとキューピー。

 「ど、どうしたの、みんな」

 「ほらぁ、竜二さん居酒屋でいってたでしょ、岬さんが湘南で情報誌みたいのつくるって。で、相談してメンバーそろえてたら、こんなんになっちまったでつよ」

 「美那子ちゃん、こんなん、はやめなさいっ!」

 「み、岬さん…てば四十路越え」

 「キーッ、つー訳でね!竜二くんにも文章見て貰うんだからね。岬だって、岬だって、熟女ブームでメチャもて期なのよーっ!」

 「りえなんか、NPOの若いのが、もーっ。ふふっ」

 「キーッ、つー訳でね!竜二くんにも文章見て貰うんだからね。岬だって、岬だって、熟女ブームでメチャもて期なのよーっ!」

 「あ。岬さん、それ二回目。ふーん、で、なんでここへ?」

 「ほらぁ、竜二さん、暇だべ?だから、ここ事務所にしたの。で。第一回目、会議つーこったな」

 「暇って、そんなに暇じゃ…」

 「あっ、新しいサッカーゲーム、みっけ。滅私奉公いる?」

 「おうっ!マラどーなってんの?」
 全員、無視。断固、無視。つーかおやじギャグ禁止。

 ま。ここも父親母親と俺だけだもんな。パソコンもあるし、まっ、いいか。

 「竜二くん、お久しぶり。そういえば、僕、結婚したんだよ」

 「えっ!徹くんがっ!」

 「うん。覚えてる?ミーナ。彼女もうさぁ、日本のロボット技術とダッチワイフ技術が融合してさ、完璧!今度、紹介するね」

 「はいはい。徹くん、その話はまたね。でさぁ、竜二くん、第一回目はさぁ、湘南のわんこを紹介しながら地元富裕層クライアントから金がっぽせしめるんだけど。若いくせに生意気な美那子ちゃんとりえちゃん、カメラマンのモーホーとキューピーが取材してきたのをさ、チェックして欲しいのよ。ほら、あたし、岬は一応、社長さんだから」

 「うん、いいけど。美那子とりえちゃんなら、それでOKじゃないの」

 「ダメダメ!このふたり、湘南が地元で土地持ちの親のいるサーファーのお金持ち二世狙っているだけだから。それに、そうそう竜二くんの身障者割り使って銀行に低利率で融資してもらっているし…」

 「な、なんだよ!俺が融資されてんの!」

 「そ。だから会社名も株式会社タックで登録してあんのよ」

 「あんのよ、って、何?タックって?」

 「…知らない。すけじぃが割り込んできて、これにしろっ!て」
 すけじぃの頭の中では、俺はタックで止まってるんだなぁ。

 「竜じぃ、おっつ!」

 「キャー、かわいい。これが噂の甥っ子ちゃん?魂こめてノリくん?」

 「あ、こんちわでちゅ。えいっ!」

 「キャー!ちょっと年長組だからって、いきなりスカートめくりかいっ?」

 「パン2○見えでつ」

 「あっ、すみません。美那子さん。ノリ、最近、色気づいてきて、幼稚園でNO.1のスケベらしいんですぅ」
 妹の洋子が旦那の松本くんときた。

 「ノリ、スカートめくりはいけないでしょ!っていうか、あなたのおしめ、う○ちでぱんぱんじゃないの!もうっ!」

 「う○ち、くちゃくちゃ。ぎゃははは!」
 ご飯を炊く時に香るような匂いに全員が癒やされる。

 「そうだ!ねぇ、洋子さん、今度出す情報誌の表紙、ノリくん借りていい?こんだけ可愛いんだし、いけると思うの!」

 「えーっ、岬さん、表紙は美那子じゃないの?だいたい富裕層の男子相手にガキじゃさぁ」

 「美那子はお黙り!富裕層はあんたらが狙ってる男子の親よ!そうお孫ちゃん大好き世代なのよ。ふふふ。これで、いけそうだわ」

 「はーい、ノリくん、キューピーちゃんだぞぅ」

 「ん?おめ、つまんねぇ。そっちのおじちゃんはなんだ?」

 「あっ、モーホー志田でございます」

 「ぎゃはははっは!」

 「ガシャ!いい笑顔、もらい!」
 ノリの笑いのツボを突いたモーホー志田さんは、それから二時間、お馬さんになったが、志田さんもモーホーだけに子供との遊びが新鮮なのだろう。すんげぇ楽しそうだ。

 結局、俺は『湘南セレブ』というわかりやすい名前の情報誌の原稿チェックと「タックの今月」というコラムを書くことになった。

 しかし、友だちっていいよなぁ。うん、前から思っていたけど、家族も他人もごちゃ混ぜにして、友だちをセレクトすると人間関係が少しスッキリするよなぁ。血がつながっていたって嫌いな家族は嫌いだし。他人だっていつでも一緒にいたい奴がいるもんな。

 …ん?ふと気づいたのだが、岬さんの旦那は長男の健一、妹洋子の旦那さん松本くんも長男、徹も長男、で、かわいい甥っ子ちゃんノリも長男かぁ。なんだかんだ、お世話になってんだなぁ、長男に。

 そんなかわいい長男、ノリの笑顔がばっちりな『湘南セレブ』は大受けしてしまった。創刊号は色々な湘南のお店の前に置かせてもらったのだが、ノリ表紙が効いたのか、セレブだけでなく、女子人気がすごいことになってしまった。なんせつくっているのはその辺の印刷所ではなくその道のプロ。仕上がりも上品で、内容も個性的、しかも無料。湘南の街から創刊号は、あっ、という間に消え去ってしまったのである。わんこ特集だからハズレはない。

 しかも、徹がウェブでも配信しているから、全国、全世界から、問い合わせが殺到。俺は実家子供部屋の安いパソコンで、そのコメント返しに大忙しだ。

 「ノリ様のおなりー、だぞいっ!」
 美那子と妹の洋子が、ノリを引きつれやってきた。

 「竜じぃ、すごいでちゅ、ご本がノリだらけ」

 「おうっ!ノリすごい人気だなぁ。さすが俺の甥っ子ちゃんだぁ」
 相変わらず、おしめ、う○ちでぱんぱんのノリ。よくはわかってないみたいだが、少し誇らしげ。

 「でもさぁ、ノリもうモデルなんかしないぞ。ボッケモン大会があるしぃ、もうすぐ小学生だからな」

 「うんうん、そうだよなぁ。下手に人気出て、マイカル・ジェイソンになるのも大変だもんな」

 「そうそう、次は美那子がモデルになるんだし。いっひっひっひっ」

 「気持ち古い笑い方だな、美那子はぁ。でも、一応、好評だから、美那子モデルしたら、湘南サーファー男子が…」

 「キャー!美那子、嬉しい!タマよタマの腰のこのラインでタマよタマ!たまらんち!」

「そこの生意気で若いの。十年早いのよ。十年!いいっ!湘南セレブはあくまでもセレブ狙いでいかないといけないのよっ!バブル期を思う存分楽しんで、年金もそこそこ貰えてる男根、違った、団塊の世代にアプローチし続けないとね。ふふふ。だから、次は私こと、岬さんがモデルよ!いいっ!編集長命令なんだからぁ、もぅつ!元コギャルの岬さん、もはや熟女代表ってかぁ!キャッハッハッハッハー!」
 いつもの岬さんだったが、全員、沈黙の艦隊。ノリがそっと、岬さんのおなかに手をあてる。

 「岬お姉ちゃん、太ったか」

 「えっ?ノリくん冗談は美子さん、って、あら、岬さんの下腹ぽっこり?こ、これがぁ、熟女のいいとこじゃんてば、手羽先…」

 「あらっ!ねぇ、ノリ、もしかしてノリに弟か妹できるかも知れないよぅ。ほら、岬お姉ちゃんがプレゼントしてくれるって」
 妹洋子がいう。なるへそ。そういえば、岬さんらしくないふくよかな下腹。

 「えっ、違うわよ?違うでしょ、これは昨日の焼肉カルビよ。えっ、赤ちゃん、岬の赤ちゃん!健一さんの赤ちゃん、いやーん、かわいいに決まってるしぃ。どうしよぅ、えっ、病院はどこ?どこなのよーっ、高年齢出産特集ね、次はって、そんなことしてる暇あんの、岬、感激ぃ。なでち○こジャパンー…」

 「はいはい、四十路越えな岬さん、あわてないで。竜二さん、この辺に病院は…あっ、須田医師のところ産婦人科あったわよね。じゃ、ちょっといって来るね。ほらほら、岬ママ!」

 「ママ!ママァ、ドゥユーリメンバー!岬がママ。ママでも金。金、金、金。 赤ちゃんよぅ、健一さん!私たちの合体が実るくんよーっ!」

 結局、岬さんは妊娠三ヶ月だったらしい。しかし、健一もやるなぁ。
 かたわらでは、ノリがなにやら画用紙に描いている。今日はお泊まりなのだ。ノリひとりいるだけで、部屋の雰囲気もぐっと柔らかくなる。

 「おっ!ノリ、お絵かきかぁ?」

 「ちがうよぅ。お話書いてるんだ、ノリ。岬お姉ちゃんも、美那子お姉ちゃんも、りえお姉ちゃんも、竜じぃもみーんなもじもじくんしてるから、ノリも書くの」

 「そうかぁ、どれどれ」

 …ノリ、もうすぐおにぃちゃんになるんだぁ。まだおとうとかいもうとかわからないけど、うれしくてねむれないの。おとうとならいっしょにゲームしたりやきゅうするんだぁ。いもうとだったらおままごとかなぁ。でも、どっちでもいいや。ノリ、パパやママとあそぶのもたのしいけど、おにぃちゃんになったら、こどもランドつくって、こどもだけであそぶんだぁ。…

 「うっ!」
 あまりの純真さに泪。そうかぁ、長男て兄弟欲しいんだろうなぁ。親はひとりっ子だとずっとひっついてるもんなぁ。子供も疲れるわな、そりゃ。…健一もそうだったのかなぁ。親の過保護つーのも、子供にゃよくないよなぁ。

 「竜じぃ、ノリのママ生まれて嬉しかったか?」

 「そりゃ、そうだよ。ずっと健一おじさんにいじめられて、やっと子分ができたんだもん。一日中、走りまわってたよ」

 「げっ、一日中かぁ。ノリも岬お姉ちゃんの赤ちゃん生まれたら、いっぱい走るんだ。地球一周くらい!」

 「えーっ、じゃ、明日から特訓しないとなぁ。それと、おむつする前にママにトイレ!っていわないと、走れないぞ」

 「うん、つい面倒でな。でも、そうだよね。走ってる時、う○ち落ちたら、大変だもんね!じゃ、おやすみ」

 なんだか、何年ぶりかの安らかな眠り。

 『湘南セレブ』編集長、岬さんが妊娠、つわり状態のため、急きょ、第二号は、ガンバレ育児ママ特集となった。最近は、不況のせいか、専業主婦に就職するのが流行っている。お陰さまで、二十歳代の若くて素敵なママさんが湘南にもたくさんいるのだ。

 表紙は美那子をサーファーにして、海バック。ボケでウチの父親母親とノリが遊んでいる。なかなかいいカットだ。

 「キャー、美那子、本当に若奥様みたいで素敵!これ、売ってもいいんじゃナイス!か?」
 元水泳部だけあって本物のロコガールのような美那子は、妙にセクシーだ。

 「ふむ、マジ美那子さんとは思えんよなぁ。これならいけるよ」
 とモーホー志田さんも微妙な発言。中身はクライアントのお嬢様からピックアップされた本物のママさんのインタビュー。前回のわんこ中心ペット特集に続いてクライアントさま提灯記事だが、一般の人にもまた受けた。俺の書く「タックの今月」というコラムもなかなか好評なのだ。今回はノリの書いた詩?みたいの。

 きょうはようちえんおやすみ
 なのにママたちすぐクルマでおでかけしたがるんだぁ
 ノリはねぇママやパパと
 おうちでおえかきとかしたいんだけどなぁ
 でもおんせんのマッサージするイスが
 ママのだいこうぶつ パパもビールがぶがぶ
 だからノリはがまんするの 
 だって みんなわらってるもん

 いやぁ、なかなか鋭い切り口。ガキにはかなわんなぁ。

 「かなわんなぁ、じゃありませんぜ!竜二さんてば、手羽先!」

 「ん?岬さんか?」

 「ちゃう、美那子。少し日焼けして伸びやかな美脚が鮮烈な美那子よ!エロっぽ!竜二さん、美那子あてのファンレターってばよぅ、すげぇんだけど。なんなの?おやぢぃだらけじゃん。六十三歳無職ってば、なによ!ってか、そうでなくてよ。あの東京文京区にある大出版社文京社からお電話ですぜ」

 「文京社?」

 話は簡単だった。好評な『湘南セレブ』を読んでの、買収話だ。つまり、文京社からの出版にして、売ろう、というもの。もちろん、その後、『東京セレブ』とかもつくるのだろう。速攻断わる。この『湘南セレブ』は地元クライアントからの掲載料でつくられている。だから、大企業のつまんない広告なんか載っていない。広告なんか作ら(れ)ない小さな会社とともにつくる、ってのも岬さんの編集コンセプトだ。スタッフは東京でガツンとやってきた一流どこ。発想も仕上がりも大手出版社では、できないクオリティ。だから面白いのだ。受けているのだ。さらに、徹の会社でウェブ発信もしているので書店で売ることもない。電子書籍も考えているのだ。

 「あらま。竜二さん、もったいなーい。美那子、全国デビューかもしれなかったのにぃ」

 「美那子、これ見た?」
 パソコンを開き、徹のつくった『湘南セレブ』ホームページを開く。読者が書き込んだコメント。

 「この表紙の奥さん素敵です。世田谷区リーマン。表紙の子のウェットスーツ、どこで売ってるんですか?大田区ミカ。あぁあ、こんな奥さん欲しいなぁ。札幌フリー。このモデルさん、独身?だったらメアドGETしたいです。沖縄店主。ILOVEYOU.TOM。…」

 「すごっ!美那子、もて期か、今。つーか、なんか恥ずかしいくらいだわんわん」

 「なっ、もう美那子は全世界展開なんだよ。知らないぞ、アラブの石油王からプロポーズされても」

 「うーん、アブラよりさぁ、あの人にプロポーズされたいんだよなぁ、美那子はさ」

 「あの人?誰よ?」

 「…ん?」
 いきなり頬を赤く染めた美那子、昔のお嬢様な感じを漂わす。

 「美那子はあんまり恋愛ってしたことないんだ。だからよくわからなかったけど…」

 「けど?」

 「須田医師も素敵だけど、惜しいけど、悔やしいけど、り、竜、竜二さんが、やっぱり好きみたいなの」

 「ぎゃは…」
 笑いかけてやめた。すけじぃにもいわれたが、二男はこんな風にもてることもある。が、つい茶化したりしてしまう悪い癖がある。

 「俺も美那子のこと、好き、だと思う。でもいいのか?俺、何時、心不全でぽっくりいくかわかんないし、結構おやじだよ」

 「そ、そんなこと、いわないでよ!美那子がいいんだから、いいんだもん!」

 「…そうか。お、俺も美那子のこと好きだよ」
 二男坊としてはストレートな台詞。ちょっと気恥ずかしい。

 「竜二さん…」

 「ノリのおいなりさんー!ん?どうした、竜じぃと美那子お姉ちゃん…はっ!これはだ、ママー、竜じぃと美那子お姉ちゃんが赤い顔して風邪みたいだぞい」

 「えー、本当?」
 はっ、とする洋子。

 「ノ、ノリ、こ、ここは、逃げましょう」

 「な、なんだぁよぅ、ノリ、竜じぃにもじもじくん持ってきたのにぃ」

 「あっ、いいのよ。洋子さん…。どれどれ、ノリくんのもじもじくん、お姉ちゃんにも見せて」

 「おうよ」

 ノリはひよこぐみのさとうよしこちゃんがだいすき
 だから、こくはくしたんだ
 でも、はずかしいから、ことばがでないの
 スキっていえないんだよぅ、ヘンなの
 だから、チュってキスしちゃったぁ
 そしたら、さとうよしこちゃん、嬉しい、だって
 ノリのほうがうれしいのに、へんなのぉ!

 (げっ、さすが長男坊ノリ!言葉が出なければ、いきなりキスだなんて、二男坊がやると相当、女子に反感呼びそうなのによ)

 「まぁ、いいわねぇ。じゃ、美那子お姉ちゃんのことは、好き?」

 「チュ」

 「…お、おめ、マジ、キスうまくね?たまらねぇ、この柔らかな感触ぅ。いちころよ、美那子も」
 (うげっ、俺なんかファーストキス、高三だし、ヒゲの感触に落胆したっちゅうのに)。

 「竜じぃも、ちと、試してみ。すげぇよ、ノリ!」

 「ば、馬鹿、男同士がなぁ?」

 「チュ」

 「…」
 やばっ、顔が赤いどころか、高熱が出そう。

 「竜じぃ、キスは好きな人にするから、男でもいいんだよぅ。な、ママ!」

 「あぁ、まぁね。今はね。まぁ、とりあえず、今日はマクドでもいこうね、ノリ」

 「うん!ポテトが止まんないんだよなぁ、あそこ。じゃね、竜じぃと美那子お姉ちゃん!」

 「うん、バイバイ」

 「おうっ、またな」

 沈黙。

 「でと」

 「でとっくす。ちとおトイレ」
 (ガチャン!チャー!さてと。ここからだな、あくまで長男ぽく、純粋に素朴に素直に、と)。

 「なぁ、美那子、なんか風も気持ちいいし、これから鵠沼のイタメシでも食いにいこうよ!」

 「わぁ、ごち!美那子、しらすのピザがいいなぁ」

 「OK!じゃあ、いこうぜ」

 少し秋の匂いがする晩夏の日差しが眩しい。ルート22が4沿いの海岸は海の家もとっぱわれ、サーファーたちがアシカのように漂っているだけだ。
 
 「あぁ!いい気持ち!」

 「本当だな。ライターなんかやってるとこうして外行くのが一番の贅沢だもんな。しかも取材なしでさ」

 「そうよねぇ、てか、つい取材しちゃいそうよねぇ」
 美那子の笑い声が心地よい。

 「まぁ、しちゃってもいいけどな」

 「しちゃう?」

 「しちゃぅ!」

 「ぷっ。何をだよぅ?」
 美那子はスベスベとしたノースリーブの腕を俺の腕にからませた。
 美那子のオンナの部分を感じる。

 「ん?」
 ちょっと俺の顔をのぞいて、さらに美那子は俺の肩に小さな頭を乗っけてきた。幸せなぬくもり。高台にあるイタメシ屋からは、西浜海岸が広がり、左手に絵ノ島、右手に婦士山が覗ける。俺と美那子は向かい合わせではなく、椅子をふたつくっつけて、寄り添う。Gパンをぶっち切ったショーパンから伸びた長く美しい脚が俺の膝に乗り、複雑にからまる。

 究極のくびれラインが俺の身体に這うようにくっつく。オンナらしい豊かな髪を頬に感じながら、俺は「ぼーっ」としてた。(オンナの身体ってすごいよな。タコみたい)。少しうらやましそうな視線をしたボーイにしらすピザとタコのマリネ、おすすめの白ワインを頼む。

 「ねぇ、竜二さん、じゃなくて、竜。美那子、やり過ぎ?ずっと、いつかこんな風に彼といちゃつきたかったんだぁ。あぁ、夢みたい。竜の身体ってすごい熱いんだもん。少し感じちゃう…」
 言葉が出ない。(あっ、こういう時はキスか)。そっと美那子の頬にキスをする。

 「いやん」
 美那子の身体がビビッと小さくうづくまった。そっと抱きかかえるようにして、美那子の目を見つめる。少し濡れた瞳が、湘南の陽光に光る。今度は大人のキス。リップクリームだけのやわかなくちびるをくちびるではさむ。はさみながら、めくりあげ、舌先を遠慮がちに美那子の…。

 「竜じぃ、何してんだぁ。美那子お姉ちゃんのこと好きなんだか?」
 ノ、ノリおにぃちゃんてば!マクド、いったんじゃないのかよう?後ろには困った顔の洋子にその旦那さんの松本くんがニコニコと。

 「あっ、ノ、ノリくん違うわよぅ。今、竜じぃと…」
 さすがの美那子も言葉が続かない。

 「キスだべ」

 「あうっ!違うよなぁ、なぁ、洋子?」

 「ええ!あれはあれはよ、ノリ、そう美那子お姉さんの目にゴミが入ってたから、竜じぃが取ってあげてたのよね。ね?」

 「そ、そうだよ、古典的だけど、そうなんだよぅ、ノリ!」

 「ぷっ!竜義理兄さん、ノリにゃぁ、バレバレですよ。ノリぃ、これが本当の愛のある大人のキスだからな。だけど、お前には十年早いからな」
 あっ、さすが義理の弟、松本くんも長男!なんて素直なことで。

 「うん!ノリはまだ年長組だしな。あらっ!でもノリのち○たま、少しでっかくなってんぞぅ。なんだぁ、こら?ママってばぁ?」

 「えーと。それは、そうよ、しらすピザが食べたいのよ。ほら、ち○たまだって食べなきゃ大きくならないでしょう」

 「洋子、余計下品だぞ。ノリ、こっちおいで。それより、竜じぃと美那子お姉ちゃん、恋人同士になったみたいなんだ。そういう時は?」

 「うーんと。バンザーイ!だな」

 「そうだな。よしっ!えーっ、店内の皆様、恐縮ではございますが、ここにいるふたり、無事、年齢の差を越え、馬鹿ップルになったようで。よろしければ、万歳三唱をお願いできますでしょうか?」

 「バンザーイ!」

 「バンザーイ!」

 「声が小さいぞ、せぇーのぅ、」

 「バンザーイ!」

 「おいっ、洋子、お、おまえの亭主…」
 いない。

 俺と美那子はさっさとしらすピザを白ワインで飲みほすと、逃げるように店を去った。ノリが「おまえら、がんばれよー!」と叫んで、お店からは失笑が…。

 数歩、前を歩く美那子。
 (あぁ、雰囲気だいなし。どうすっかなぁ)

 「竜。美那子、泣いちゃってるんだぁ」

 「えっ」

 「だって、あんな祝福ある?竜と美那子は恋人同士、って世界中に言いふらされたようなもんじゃない。ちょっと恥ずかしかったけど、美那子、感激だよぅ。ノリ父もやるよなぁ」
 (はぁ。なんかわからんが、ご機嫌はいいようである。しかし、ああいうこっ恥ずかしいとこは、さすが長男だよなぁ。いや、二男にゃできんわ)。

 「じゃ、竜、あそこのさぁ、ホテルまで美那子をお姫様抱っこして」

 「お姫様抱っこ?」

 「そう」

 「俺が?」

 「YES」
 ちなみにだが、俺と美那子のそんな様子をデジタルビデオで盗撮してたってんだから、松本くん、変態。つーか、洋子とノリまでいたのかよぅ。

 あ、電話。

 「おらぁ!観たわよ、松本くんビデオ!あ、あたし?安定期な岬さんよ。お酒も煙草もやめ、ひたすらマタニティヨーガに励む毎日。でぇ、竜二くん、あらぁ、恥ずかしいわ。よく、やったわね。あっ、」

 「健一だけど。おめでとう(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。

 「もしもし、竜二か。とうさんだが、かぁさんがあのビデオ、DVDに焼いて近所のおばさん呼んで何回も観てるぞ。あっ、」

 「竜二?かぁさんよ!あんたいくつよ、ぷっ(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。

 「もちもち、すけじぃでちゅがぁ、ぎゃははははぁ!お馬鹿だよなぁって、」
 「かまやつだワンワン(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。

 「徹だけど、いやぁ、竜二くんおめでとう。僕とミーナよりお熱いんですね。うらやましい(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。

 「あ、竜ちゃん、元カノりえよ。やったわねぇ。私との経験が生かされたって訳よね。でもさぁ(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。

 「もしもしモーホー志田よ。竜ちゃん素敵。モーホーはあんたの味方よ、あっ、」
 「竜二さん、キューピーだけど。尊敬しますん(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。

 「あぁ、須田だが、ありゃ心臓に悪いぞ、あっ、」
 「ミニスカ看護士和田真由美よ、ウチ、神経科もあるからさぁ。ぷっ(笑)」
 (笑)ってなんじゃい。
 
 さて、いわゆる年の差カップルとなった美那子と俺だが、たくさんのお祝いのメッセージを頂いてしまった。

 「ふぅ、洋子の旦那、松本くんは要注意だな」

 「まっ、いいじゃん。みんな、案外、やいてるのよぅ。竜と美那子のこと。だ、だって、今だって、朝からふたりして、裸族だなんて、いやん」
 …俺は一応、心臓病である。が、この美那子のいやんに弱いのだ。

 「美那子…」

 「竜…」


 「おいっ、ち○たま出てるぞ!」

 「はっ!ノリ」

 「いやん、ノリくんてか、洋子さんと松本くんまで…あっ、 美那子今ヌード全開だし」

 「竜ちゃん、ゴメンねぇ。ウチの旦那、ああいうの撮影しては、ユーチチブにアップするの趣味なのよぅ」

 「…洋子、今、ユーチチブっていったか?あの全世界中のパソコンで観れるユーチチブのことか?」

 「竜義理兄さん、アクセスすごいんすよ。ユーチチバーだなぁ、僕も!」

 「僕も、って、こらぁーっ、美那子のヌードまで撮影してんじゃねぇ!」

 「あ。ばれたか。でも、これアップは難しいな。ぷっ」

 「でさぁ、とりあえず結婚はどうすんの?」

 「結婚て、俺たち恋人同士になったばかりで…」

 「ダメダメ、竜ちゃんはまわりが固めないと、また別れたりしちゃうタイプなんだから。一応、これ式場のパンフレット、見といてよ。ノリ、いくわよ」

 「ママ、美那子お姉ちゃん、ち○たまねぇぞ」

 「女子はみんな隠してるのよ」

 「こらっ美那子、裸族であぐらは止めなさいっ!って、もう式場パンフレット読んでるのかぁ?」
 「だって、竜二さん、今、思い出したけど、女って式場とかに関しては曲げられないんだって。ウチの父親なんかも見栄っ張りだからなぁ。やっぱ、ウェディングだよなぁ…」
 (…そうか、ここで、ガタガタいわないのが長男なんだな。俺、ここでガタガタいうタイプだもん
な)。

 「そうだなぁ、美那子はスタイルいいから、ウェディングに、そうだ!セーラー服からOLスーツ、チャイナ、ナース、ゴスロリ、ブラジルな紐水着までやって欲しいよなぁ」

 「美那子、そんなんしないもん」

 「あ。し、しないよな(汗)」

 「不痔峰子にキャック・アイに初寝ミクで行くんだもん!あぁ、忙しいじゃん!だわ。こんなことしてられないわ。裁縫しないと!」

 「う、うん。こ、これ、パンツ」

 「よしっ!竜は当然、ルピンよ!痩せてよ、十キロ!」

 「…十キロ」

 「うーん、美那子、なんか盛り上がってきた。式はよーするにきてくださった方に喜んでもらわないと、ねっ!竜とふたりのイメージビデオに、そうだわ、バンド練習もしないと。泣きの芝居も必要不可欠ね!大変だわぁ」

 「美那子、ブラと洋服も…いない」

 翌年三月。式の日取りも決まり、俺は十キロの減量に成功し、美那子はコスプレーヤーさながらに各種衣装を縫い上げた。
 『湘南セレブ』はこの不況下にかえってブームとなり、ページ増大。岬さんのお腹ははちきれんばかりにふくれあがり、健一の財布もふくれあがる。父親母親は年金ラッキーもんとしてカナダとハワイへの旅行を決行。ノリは小学一年生に向けて、空手の稽古。洋子&松本くんもムダに人生を楽しんでいる。徹の奴は、ミーナとともに湘南に引っ越してきて『ミーナと一緒!』というブログが大あたり!著名ブロガーとしてミーナの着せ替えごっこに夢中だ。元カノりえちゃんは、どうもNPOの男性会員と同棲したらしいが犬だという噂もある。モーホー志田さん&キューピーも、湘南に引っ越し、湘南セレブで捕まえたクライアントのお仕事がぼつぼつといい感じ。キューピーの『盗撮!湘南美人妻』はマニアにだいぶ売れたらしい。須田医師は、心臓外科のカリスマとしてテレビにラジオに大忙し。和田真由美看護士は、須田医師のマネージャーとして相変わらずミニスカで闊歩しているそうだ…。

 「あれだよなぁ、美那子ぅ、なんか知らないけどこの平成大不況、リーマンショック、格差社会、政治腐敗とあれだけど、俺たちみんな幸せだよなぁ」

 「うん、そうねぇ。世間様に悪いくらい幸せもんだぞっ!感謝しないとねぇ」

 「感謝かぁ、…俺はやっぱり二男のくせに結婚まで来れたのは数多くの長男のお陰だから、長男に感謝かなぁ…」

 「長男?なんだぁ、それっ!私は私だな。頑張ったもん、美那子。って、ふたりとも大間違い!神様に感謝よ!」

 「そうかぁ、なんまいだぁ、なんまいだぁ、っと」

 「ふふっ、宗教の価値が訳わかんない日本に生まれてよかった。イベントも多いし。ウェディングも着れるしなぁ。アーメン」

 「さっ、とっておきの焼酎、名月でもやるかな。どう、美那子も一杯?」

 「うん。そうかぁ、ふたりとも独身最後の夜だもんね。ふふっ、襲わないでよ」

 「馬鹿、おまえだろ、襲うの!」

 「…だって、竜、腹筋ぼこぼこがあるんですもの。あーっ、ぼこぼこぼこ!大好き!」

 ♪チンチロリーン

 「ん?携帯?あっ、すけじぃだ!」

 「すけじぃ、お久しぶり。明日、来てくれるんだろ?」

 「あっ、竜二か?いいか、よく聞け!おまえ、二男がそんなに簡単に幸せになると思うか?あまりに甘いと思わないか?いいか、俺はこれからグアムの方へいく。おまえも、それからみんなにも伝えてくれ!すぐに日本を出るんだ。でないと…」

 「なんだよぅ、すけじぃ。どうせ結婚式が済んだらワイハだし。二男にだって幸せは来るんだよ」

 「竜二、もうこれ以上は言えないんだ。頼むから、みんなで日本を離れてくれ!俺はもう、行かなくちゃならないんだ。いいか、竜二!おまえという二男が幸せになるなんてことを神様は許さないんだ!なぜかは知らないが、それが二男の宿命なん…ププー」

 「すけじぃ、なんだって?またヘンな踊り踊ってくれるって?」

 「うーん、なんかわかんね。俺が美那子と一緒になんの嫉妬しちゃってんのかなぁ」

 「そらぁ、そうだよなぁ。ふふっ、竜…」

 「美那子…」

 翌日、三月十一日。
 
 湘南では晴天の中、ビッグウエィブが立ち、サーファーが大声をあげ波に乗っていた。俺は午後からの式に備えて、ノリとお話ししてた。

 「竜じぃ、ついにだな。あがるなよぅ、おいらがついてっからな」

 「おうっ!俺が酔っ払ったら頼むぞ」

 「うん!竜じぃ、おめでとうだな!」

 「サンキュ!」

 俺はきつくノリを抱きしめると、二男も長男も家族も他人もオトコもオンナもモーホーもミニスカもないよな、みんな一生懸命に生きているだけだよな、なんて柄にもないことを思った。

 「竜じぃ、今日は波がすごいぞ!」  「がははっ、俺の結婚式だからな!地震でも起きるんじゃねぇか?」     
                           

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