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「スヌーピー」その3 [ショート・ショート]

「ばいばい!スヌーピー」

働くようになって、スヌーピーの散歩は妹が中心になってやっていた。
だが、夜、学校が遅くなると行かない。

その日は最終電車だった。
玄関を開けると、スヌーピーの散歩をせがむ鳴き声。
「よしよし」となだめ、とりあえず、夕飯を食べ、風呂へ。
その間も、スヌーピーは切ない声を出している。
実はスヌーピーはフェラリアに罹っていた。もう、誰が誰だかわからなかったはずだ。
疲れから、寝床へ入る。
「クォーン!クォーン!」「どんどん!」

「どんどん!」は母親が鳴き声どうにかしろ!という合図だ。
僕はなぜか怒りに包まれ、スヌーピーを叱った。
それまで、叩いたことのない頭をゲンコツで殴った。

スヌーピーは、その瞬間からくるくる回りだした。くるくるくるくる…

翌朝、スヌーピーはくるくる回りながら、
何も見えてはいないのだけど、何処かへ消えようとしていた。
そう、死に場所を探すように。

妹が動物病院に連れて行くと「もう…」という話だった。
雨がそぼ降る中、スヌーピーは物置の中で相変わらずくるくる回っている。
妹が一晩、付き添った。

次の日、会社から帰ると、スヌーピーは亡くなっていた。
めずらしく家族全員揃ったが、食欲は進まなかった。
…今でも、桜の木の下でスヌーピーは眠っている。
そして僕のカバンには、スヌーピーの毛と般若心経の書かれた妹手製のお守りが入っている。

僕はどう、スヌーピーに謝まったらいいのだろう。

『スヌーピー」その2 [ショート・ショート]

『スヌーピー』-2

スヌーピーはアイヌ犬の雑種。
中型犬より少し小さいが、喧嘩は強かった。
当時はなぜか、大型犬を連れ、喧嘩を仕掛ける馬鹿が多かった。
スヌーピーと散歩し、夜の公園で恋ばなをしていると。
酒を呑んだおっさんのわめき声が近づく。
通りひとつ向こうの家から、ボクサー犬を連れたおっさんが来る。
豆芝の2倍程度のスヌーピーに勝てるのか?
ボクサーはまったく893としか言えない顔で、スヌーピーに飛び掛ってきた。
「ウゴゥグルルゥ!」
僕はおっさんに言う。
「てめぇ何しやがんだよ!」
「公園にいるんじゃねぇ!」
訳わかんね。
と、スヌーピーはボクサー犬の攻撃をヒラリとかわし、
相手の喉仏を狙う。僕はおっさんの腹に蹴りを入れた。
弱気になってるボクサー犬にも蹴りを入れ、さっさと去る。
スヌーピーは怪我もなく、さっさとマーキングに取り掛かる。
「おまえ強いんだなぁ」
「クゥーン」
おうおう、可愛い奴。

違った。
彼女犬の家の前だった。やるなぁ!


「スヌーピー」その1 [ショート・ショート]

『スヌーピー』-1

漫画『スヌーピー』が日本に紹介された頃、
中一だった僕は近所で生まれた子犬を貰ってきた。
ダントツでメス犬が人気だった中、なんだかよたってるオスの子犬だったが、
僕はひと目で気に入り、抱っこして家に帰った。

もちろん、スヌーピーと名づけた。
アイヌ犬の混ざった中型の雑種だが、頭がよく大人しい奴だった。
残り物の味噌汁ごはん、蚊が飛び交う暑い庭、気まぐれな散歩…
今のわんこ様では、もたなかったろう。皮膚病とフェラリアに後年、罹る。

よく学校をさぼってスヌーピーの散歩をしていたが、高校生の時。
神社の裏山で、スヌーピーと恋愛について語っていると…

「ガサッ!」
「ん!」と、見ると、やはり犬を散歩しているおじさん。

「…女はやめとけ!犬は裏切らないぞ!」 …実際、その通りではあった。

「コカコーラ」 [ショート・ショート]

『コカコーラ』

中2の春休み。なんだかぽっかぽかな僕は、鎌倉にギターの弦を買いに行った。
と、鎌倉山の桜並木をこっちに向かって歩いて来る脳天気な集団。
ん?あれは、学校一の人気者、エリちゃんたちと、僕と同じサッカー部の奴ら。

「おうっ!」
「おうっ!何処行くのよ?」
「えっ、ギターの弦、買いに…」
「へへぇ、俺たちグループ交際つーか、デート!」
「あ、ああ…」

腸煮え返る思いであった。この糞馬鹿サッカー部どもとキレイどころ女子チームがデートかよ。

「今『ちいさな恋のメロディ』観てきたのよ」とエリちゃん。
…あぁ、喉渇いた。そう言うと、エリちゃんは自動販売機でコーラを買い。
飲んだ。…あぁ、飲む姿までも神々しい。
また、飲んだ。二本目。また、飲んだ。三本目…?。

「エリちゃん、飲み過ぎじゃないの?」
「いいの、ウチの父親コカコーラは骨を溶かして、
頭を悪くするからって、飲ませてくれないんだもん」

全員、沈黙。
(それでなきゃ、スタイル抜群、アイドル並みフェイス、
運動神経抜群、成績優秀には、ならんのだろうなぁ)。
そのグループ交際は、その一回で終焉を迎えたそうだが…ザマミロ。
なんだか、エリちゃんを身近に感じた僕ではあった。

「モデル」 [ショート・ショート]

『モデル』

 「あなたの部屋にあった大きな本棚とベッドと親に渡してるお金…私のよ」

 先週、僕は彼女を親に会わせた。一応、モデルだ。
でも、あんまり親は、喜んでいないような気がした。

 「でねぇ、土曜日は私、1日フリーにしてね。セックスは週3回。ご飯も作ってよ…」

 なんだろう、この変わりようは。
僕も彼女もそんなにお金持ちではない。
だから、それなりにやっていこう、と約束したじゃないか。

 「なぁ、ちょっと喫茶店に行かない?」

 それから、3時間やりあった。
驚いたのは、僕が言うことすべてを理解した上で、

 「でも、私はそうじゃなきゃ嫌なの!」と言い切ったことだ。
 「…」

 僕は婚約を破棄した。

 でも、今、思うと女の可愛いわがままだったのかも知れない。
たまに、昔の写真を見てしまう僕は、いまだに独身だ。

「ひよこ」 [ショート・ショート]

『ひよこ』

その頃、ひよこのオスは2円で売っていた。
僕はよくひよこを飼っては育てた。
ひよこたちは、僕を完全に「親」だと思ってる。
散歩なんかでも、ピヨピヨと後ろをついて来る。
まぁ、大きくなると鳥かごの中で大声で鳴く鶏になってしまうのだが
…(そういう場合は肉屋さんにあげる)。

ある日、団地の階段でひよこと遊んでいた時のことである。
つい、僕はつまずいて、ひよこを蹴ってしまったのである。
脚を頭上でピクピクさせ、胴体を不自然な形にしてくるくる回るひよこ。
僕はお母さんに、ひよこを見せに行った。
「あら。もう、ダメね」

僕は、しばらく考え、団地にある空き地の木の下に穴を掘った。
木の枝で十字架を作ると、涙目のひよこをその穴にそっと入れ、
土をかぶせた。なんまいだーなんまいだー。
僕はなんだか清すがしい気持ちになり、午後にはひよこのことはすっかり忘れていた。
生き埋め。そんな言葉を知ったのはずっと後だった。

「まったくもって想像的な夢の断片」 [ショート・ショート]

「まったくもって想像的な夢の断片」

冬服の女子高校生に手を引かれている。
すすきをかき分けくたびれた一軒家へ。

友達と楽しそうに話す女子高校生は、
いつの間にか、カーペットにひかれた毛布にくるまって寝ている。


2階に上がってみる。
ギターを弾きながら歌う少年がいる。
ジャーニーズのなんとか君に似ている。
そして太っちょとやせぎす。

歓迎もされてはいないが、拒否もされていない感じ。
机の上にニールヤングと小坂忠のレコード…

少年たちは中学生くらいだったが、
学校には行っていないようだった。

ジャーニーズ君がリーダーで、
みんなになにか意見を言っている。

ソフトケースに入ったギターを取り出し、
僕は「こんな感じかな…」と
ギターを弾く。

なんだか少年たちを応援したくなっている僕がいた。
年寄りの悪い癖だ。

「やっぱりジャズやったのは失敗だったかな?」
と、ジャーニーズ君が微笑む。

ヒップホップを踊っている少年がホログラムで浮き上がっている。
そんなポップアートを描いている太っちょを褒める。

みんな答えはしないが、無視もしていない。

次の日。
市役所とかそんな所の大人たちが来る。

「あいつら、俺たちが来る、といないんだよなぁ」
「学校じゃないですか。親はいませんから」

古びたビル街をぼんやりとギターを抱えて歩く。
彼らの家へ向かう。

ご飯をおごろうとしているのだが、
彼らは、マジックのように菓子パンを手にしていた。

帰り道、やせぎすがとっておきの笑顔で言う。

「おじさん、僕と、あの、2丁目とか行かない?」

少年はくったくなく言う。ドギマギしながら断る。

「…そう。おじさんも来れば楽しいのにね」

「ドン・キホーテ」 [ショート・ショート]

『ドンキホーテ』

 斉藤先生は、僕が小学三年生の時の担任だった。
色黒で、おさげ。黒曜石のように光る瞳はいつも笑っていた。
と、言っても、小三の僕に、そんなことは関係なかった。

 ある日の図工授業、
僕は、マッチ箱にぜんまいを仕掛け、
腕がまわるロボットみたいのを作っていた。
もともと不器用な僕には難題ではある。

 と、斉藤先生が「まぁ、これいいじゃない!この腕に刀を持たせれば、
ドンキホーテみたいじゃないの!素敵よ、頑張って」

 …ドンキホーテ?勉強というものをした覚えがない僕には、
それがなんなのかもわからなかったが興奮した。
それは、先生という人種が僕に話しかけてくれたこと。
それは、目立たない僕のやる気スイッチを押してくれたからだ。

 …しかし、不器用な僕に、そのドンキホーテを作り上げることはできなかった。
でも、教室の後ろに並んだクラス全員の作品の中にドンキホーテはあった。
(斉藤先生が作ってくれたのかなぁ?)。

 三年生の終わり。斉藤先生が、お嫁さんになって学校を去ることを知った。
最後の日。5段階の通信簿に、初めて4があった。もちろん図工だ。
 四年生になって、先生から手紙が来た。可愛い赤ちゃんを抱いた先生。
「もし、よかったら、みんなと遊びに来ない?」
 隣町にさえ行ったことない僕にそれは難題だった。
でも、僕はみんなを誘って、夏休みに先生の家に行ったんだ。
なぜなら、ドンキホーテのお礼をまだしていなかったから。

 今でも、群馬県のどこか、農家の縁側で、スイカにかぶりついている僕がいる。
先生の笑顔に見守られながら。

「宗教学」 [ショート・ショート]

『宗教学』

「そろそろ、卒業だな」
「うん」
「…ちっ、まさかおまえとこんなに長く付き合うなんてなぁ」
「入学してから4年だもんね。余程、私たち、気があうのね…」
「…ふぅ。でだ。俺は日蓮宗、おまえは浄土真宗。愛は宗派を越えられるのか?
なんてみんなにもからかわれたが…。やっぱり…」
「…無理…」
「だよな」

「あーあー、なんだろうねぇ、宗教ってば」
「本当!自然宗教だけでいいのにねぇ」
「いっそ、家、絶縁して、ふたりでわんニャン教でも作るか!」
「あ、それいいかも。今、ペットのわんことお墓入りたい人って多いのよ!」
「俺も今、飼ってるニャン子と入りたいもんなぁ」
「あらぁ、私。じつはあのニャン子嫌い!飼われてるくせに生意気だしぃ」
「くっ!おまえのわんこだって、今だに部屋で小便するじゃん。臭いよ」
「まぁ!私のわんちゃんは、おバカニャン子と違って、私一筋で可愛いんだから!」
「脳みそ小さいからひとりしか愛せないんだろ。ニャン子はクールなだけさ!」
「まぁ、…ち、ちょっと待ってなさいよ!ぶるっトイレ行ってくるから!」
「お部屋でしちゃダメよーだ」

「…あ、あのさ、気になってたんだけど。生理がもう2週間もないの」
「えっ!」

「ばぶぅ!みっちゃん、おはようちゃん!」
「ばぶぅ!」
「まぁ、ご挨拶できるのねぇ。偉いわぁ、今日は何して遊ぼうかなぁ!」
「にゃんまいだ」
「まぁ、宗教ごっこね!いいわよぅ!」
「なんまいだーなんまいだー」
「南無妙法蓮華経は?」
「なみょーほーれんそー」
「まぁ、天才!みっちゃん、カリスマよね!」
「やばいよ、マジ。教祖様になりそうだよ!」

…宗教なんてこんくらいでいい。

「メール」 [ショート・ショート]


『メール』

「根性なし(笑)」

俺のメアドで届いてはいるが、送り主のメールはgメール。
cccなる名前になっている。

「根性なし?!」

その時、俺の中で何かが弾けた。

「俺は、根性なしなんかではない!」

「断然、違う!」

怒りが沸いてきて、パソコンを床に叩きつける。

シャワーを浴び、久し振りにスーツを着込む。
アタッシュケースには、履歴書。

俺は、マンションを飛び出すと、
わき目もふらず駅に向かった。

「おっと」

俺の歩く風速に、よろめくお年寄り。

「あ、すみません、平気ですか?」

「ええ、ええ、心配しないでくださいな。
年寄りですから、もう膝がねぇ。どうもありがとうね」

透き通った風が、心の灰汁をさらう。

都心に向かう電車の中、
若者が数人で、女性を囲んでいる。

「やめなよ」

つい、声が出てしまう。

「何、おやじ!」

アタッシュケースを軽く振り回すと、
ひとりの若者の額を割った。

「やべっ!みんな行くぞ!」

「大丈夫ですか?」

女性は仕事中のOLさんだろう。
会社の紙袋を手に俺に礼を言う。

「ありがとう御座います。お怪我ありませんでしたか。
あの、よろしかったら、お名刺かなにか・・・」

残念ながら名刺はない。

「いや、気にしないでください」

「…でも…」

女性は、自分の名刺を差し出した。

「もし、よかったらご連絡ください。
お礼したいので…」

俺は軽くうなづく。

心のヤニが剥がれていく。


とある駅で降り。
一番大きなビルに入る。

受付で「人事部の方と約束してるのですが」と言う。
そんな約束はもちろんしていない。

なぜか、面接室へ通される。
まぁいい。

面接官は、いかにも愛想がよさそうで、しかし鋭い視線を俺に向けた。

「今は無職なんですね?」
「ええ、パニック障害で」
「…そんな病名では入社は無理ですよ」
「なぜですか?」
「…」
面接官は神経質そうに俺を見つめる。
「面白い方だな。見た感じそんな病気には見えないし、
目が輝いている。何かご専門は?」
「前の会社では宣伝部にいました」
「ふむ。君は運がいいのかも知れないね。
 今朝の就職情報誌に出したばかりなのに…」
「パニック障害なもんで」
「…ぷっ。いいだろう。
とりあえず、後日行われる入社試験と最終面接に臨んでくれ!」


どうだ!これでも、俺は根性なし!か?

床に叩きつけたパソコンはなんの反応もなかった。

無事、入社も決まり、宣伝部に行くと、
電車の彼女がいた。

「…たまにはメールもいいことしてくれんだな…」