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「躁鬱」 [ショート・ショート]

「躁鬱」

 数年前、ある同じ趣味のSNSで知り合った仲間とよく呑んだ。その中にひとりとっても明るく楽しい子がいた。
 おいらは「笑顔でやってくる子が好き」というキャッチを自分の名刺につけているほど、そういう子が好きなのでよくふたりでの呑みに誘った。いっつも、爆笑の呑み!まさに人生どこで幸せになるかわからない。
 ・・・ところがだ。吞んだ後、ウキウキと彼女SNSのコメントを読むと暗いのだ。「死にたい」とか「呑んでていいのだろうか」とか「どうにかしてよっ!」みたいな。しばらくして、彼女に元彼が酔って階段から落ちて亡くなったことを聞いた。そしてそれから躁うつ病で病院に通っていることを。結構の知りあいが鬱になっていた時代であったので気にしなかったが、あまりに「リアル呑み」と「コメント」に差があるので、デート自体、気が重くなった。リアルでは向精神剤の作用で明るくて、家ではそういう自分が嫌になるのであろう。しばらくして彼女と会うのはやめた。
 ところが最近同じ傾向の女性と仲良くなった。会うと楽しいが、SNSは毎回、反省文みたいなもんだ。ただ、前と違うのは、彼女のSNSが自虐的ながら面白いことだ。おかげでネット上で彼女の人気はうなぎのぼり。そして、そう。リアルの方が暗くなってしまったのである。おいらにはどっちがいいか、わからん。とりあえず「笑顔でやってくる子」も「心の中で泣いている子」かも知れないな、と自戒するのみである。

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「断片」 [ショート・ショート]


「最後のレディか…」

 俺の胸に顔を埋めるように崩れ落ちてくる雪さんを俺はぎこちなく、
そして切ない気持ちで抱きしめた。このまま奪いたい気持ちを焼酎で騙しながら…。

 真冬の湘南の、それも夜の海には誰もいない。
俺はエリーを口ずさみながら、その暗い海を眺めていた。

 「初恋もつまずいたけど、また、つまずいたか。しょうがねぇ男だな、俺も。とりあえず、東京に戻れば仕事が待っている。それだけでも幸せなのかもな…」

 と、突然、砂浜を走る、ザザッ、という音が聞こえた。鮎ちゃんが砂に足を取られながらも、全速力で走ってくる。そして、俺の前で急ブレーキ!

 深呼吸、ひとつ。

 「…もうっ、村上さん、馬鹿だよっ。大馬鹿もんだよっ!お母さん、泣いてたじゃん!チャンスなんて待っててくるわけないじゃんっ!村上さん頑張ってないもんっ!ストレ-トじゃないよっ!鮎だって、死んじゃったお父さんのこと大好きだけど。それとこれとは違うもんっ!もう、あきらめちゃぅのかよぅ、お母さんのことっ。村上さんに会ってから、あんなに元気になったのにぃ。馬鹿だよ、村上さんなんて大嫌いだよーっ!」

 一瞬、シューベルトのセレナーデが聞こえたような気がした。

 「…ふぅ、キツイ娘になりそうだな」

 俺は素早く立ち上がると、鮎ちゃんのことを追いかけた。そして、きつく肩を抱き締めると、そっと聞いた。


 「1番になれそうか、俺?」


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「船乗りさん」その4 [ショート・ショート]



息子さんが亡くなってしばらくは見かけることもあった船乗りさん。

ここ1年とんと見かけない。

雪積もる日も桜舞う日も玄関は閉められ、雨戸は閉じたまま。

額に汗をかき、今日もちょっと様子を見に行った。

草ぼうぼうだ。

白い瀟洒な二世帯住宅が石炭で汚された雪のように汚れている。

汚れちまった悲しみに・・・

その庭では僕と船乗りさんの三男(同級生)と遊んだ思い出がある。

長男にパフのギターを教わった。二男はいつも閉じこもって絵を描いていた。

そうか。おかぁさんは心臓病でいつも今に薄い布団をひいて寝ていた。

いつも「ごめんなさいねぇ、ちょっと身体悪くて・・・何かあるかしら」

と僕のことを気にした。

あの奥さんが亡くなって船乗りさんは元気を失った。

でも、そこに二男坊の家族が生まれて、孫ができて。

何がいけなかったのだろう。ほぼパーフェクトな人生じゃないか。

だから、さようなら。

どこかの施設にでもいるのだろう。それで、グッドジョブ!

ほとんど海外にいたのだから、

もうあなたを知っている人もいないさ。

僕ももう思い出さない。

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「船乗りさん」その3 [ショート・ショート]

船乗りさんの二男坊が結婚したのは四十歳の頃。

元同級生の美しい方でした。

数年後、幼い娘さんと3人、日焼けして海から帰る微笑ましい光景によく出会いました。

でも船乗りさんの方は奥さんが亡くなり、急に元気がなくなりました。

それでも90歳超えてなおキチンとひとり生協に買い物に来ています。

たいしたものです。
…でも、そうですね。二世帯なのに…。
実は二男坊さんの家族と二世帯で暮らしているのですが、

船乗りさんは、二階を占領し、奥さんの形見と共に暮らしているのです。

頭の中に二男坊さん家族はいないのです。

数年前、二男坊さんとコンビニで話した時、

二男坊さんの奥さんの料理を食べない、孫娘と仲良くしない、

多額の年金を溜め込んで家のローンは一切払わない…と悩みを聞きました。

二男坊は本物の画家です。

もちろん生活費を稼ぐために教師や講師をしていますが、

空いてる時間はずっと絵を描いている。そのため中学の頃から青白くげっそりしています。

先日、なんだかいいクルマの運転席から目で挨拶されました。

相変わらず眉間のしわは深くげっそりしているのですが
「おっ、もうけてんなぁ」なんて思っていました。

今日、母親が船乗りさんに会いました。生協の帰り道です。

なんと、二男坊さんが自殺をしたそうです。

奥さんが娘さんを連れて実家に行き、

どうにかしようと土下座までしたけどラチがあかず、トイレで首を吊ったそうです。

詳細は分かりません。でも。

二男坊さん、奥さんと逃げちゃえばよかったのに。

よく家族、家族という人がいますが、私は家族を特別視しないようにしています。

他人もすべて同じ人間として見る。家族にだって敵はいる。他人にだって味方はいる。

くだらない世間体に縛られるのだけは、嫌です。

二男坊さんのご冥福を祈ります。
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「船乗りさん」その2 [ショート・ショート]

「ファースト・キス」

私の妹は8つ下。小さい頃から子分にしていたため、
男っぽい言葉遣いだが、顔はまぁまぁであった。

そんな妹も思春期な小六。
帰宅するなり、歯を磨き、喉をゆすぎ、手を洗う。

「どうしたのよ」
「どうもこうもねぇよ!Kの爺ぃにキスされた!うげっ!」
Kさんは近所の叔父さんで船乗りさん。
年に数回、帰ってくるが、いつもお洒落にしている。
海外にいることが多いから、キスする習慣もあったのだろうが…

ツルッパゲの爺ぃに、ファースト・キスを奪われた妹。
今だったら、船乗りさん逮捕だろうな。しかし、運のない妹ではあった。
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「船乗りさん」その1 [ショート・ショート]

友達のお父さんは船乗りさん。

半年くらいいなくて、帰ってくると、

よく、外国のお土産をくれて、

面白い話をしてくれました。

時は流れ、心臓病で寝たきりの奥さんが亡くなり、

船乗りさんは元気がありませんでした。

でも、最近はぼくに出会うと大声で、

「おうっ!元気か?」って声をかけてくれます。

昨日、友達に話を聞きました。

船乗りさんは可愛い孫娘も可愛いがらず、

部屋には思い出の品をたくさん集め、

ゴミのような部屋で暮らしているそうです。

食事も自分で作るそうです。

もう、来年90歳。

船乗りさんは、その職業柄か、

孤独を愛しているのかも知れません。

それはそれで、船乗りさんの人生なのだと思います。

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「お隣さん」 [ショート・ショート]

「マンナブェグ テェウ バンガッスムニダ」

多分、韓国だと思う。
ぼくは、家族と一緒に、
なぜか韓国の家族に歓迎を受けていた。
それが血縁なのか、まったく無関係なのか、
は、わからないが、とにかく歓迎されている。

すごいのである。
お父さん、お母さん、お婆ちゃん、三人娘、ふたりの息子が、
笑顔のハイテンションで、喋る喋る!
トイレはあっちだー、肉、食え、この酒やばいぞー、
って、なんだかわからないけど、
おいらも会話ができないジレンマに落ち込みながらも楽しんでいる。

その三人娘の中で、二女の子が少し気に入る。
お婆ちゃんに、どの子が好きか?と聞かれ、
そんな答えをする。

みんながいない時、お母さんから、小さな極彩色の花瓶を貰う。

「一番目は大人しいけど、あんたのこと好きで、
それずっと作ってたんだよ!」とやさしく笑う。

どうやら帰国の途に着くらしい。
息子どもにやばい酒を貰う。

まだ幼い三女が言う。
「私、西の日本へ行くんだ。だって、日本人だもん!」

強い瞳が少し潤んでいた。
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「未知の国へ」 [ショート・ショート]


「未知の国へ」

心臓がドキついていた。
土曜日の江ノ電。

(こんな素敵な同級生がいたのか!)

清楚な感じでスカート丈も普通。
僕と目が合うと、そっと頬を赤らめ、外を眺める。
そして、なんと!僕の方をチラホラ。
江ノ島駅。なんと、同じ駅で降りるではないか!

(決めた!この子に決めた!)

僕と同じ方向へ行く彼女。

(同じモノレールか!)

もはや、妄想の中では、僕の彼女。
そして、同じ駅で降りた。

(こ、声をかけろ!)
あぁ、追いかけるのはやめろ!
(行ってしまうぞ!)
あっちは、鎌倉山の高級別荘地だぞ!
(チャンスだぞ!)

…結局は声をかけられないいつもの僕だったが、
学校に行く気になっただけでも、すごい。

次の日、学校中を歩き回り、彼女を探す。
(ん?いないなぁ?)
同じ、江ノ電通いの友達に聞く。

「あぁ、恭子だろ?昨日、退学したよ」
「は?」
「結婚だって。16歳なのになぁ、相手は893。
お金持ちの世界は怖いよなぁ」

全然、意味がわからない16歳の僕ではあった。
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「父と娘」 [ショート・ショート]

『父と娘』

 やぁ!仲良く手をつないで、いつもの親子が歩いてる。

 娘さんはもう四十路超えかな。
そう、娘さんは昔で言う頭のあたたかなこども。
いつもファンシーな洋服を着て、何かを歌いながら歩いている。
背は130センチくらいで変わらないから、今でも小学生に思えてしまう。

 でも、時は確実に過ぎている。

 父親は誠実そうな感じで、いつも目じりのあたりに笑みを浮かべている。
娘さんの様子から見ても優しい父親なのだろう。

 ふぅ。いつまでも、こんな風に過ぎていけばいいのだが、
どんな物語もすべて終わる。
多分、父親はすべての準備を整えているだろうが、
手をつなぐ人がいなくなることを娘さんは想像もしていないだろう。
その時、娘さんは泣くのだろうか。絶望を知るのだろうか。

 多分、神様はいる。

 娘さんは父親の存在さえ、わからない程度の知能しか持ちえていないはずだ。

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「哲学科」 [ショート・ショート]

「哲学科」

「おごるわよ」

「えっ、本当?じゃ、次は俺がおごるね」
・・・次も会えるんだな、とほくそ笑んだ俺に。

「・・・あのさぁ。おごられたら、次おごらなきゃ、って思う方?」
一瞬、意味がわからなかった。

「ん?」
「だからぁ、おごられたからおごる、って思う人におごるって悪いじゃない?」
「そ、そうなの?じゃ、次おごんない!」
「OK!じゃ、おごるね」

人には色々と哲学があるもんだ。
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